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★髪の色と嫌いなモノ

2010年03月21日 04:13

「ねぇ、亮子ちゃんのソレって地毛?」

 問われても気になどした事はなかった。
 否、気にしていない、つもりだった。
 
 
「どっちだと思う?」

 はぐらかして笑えば、ソイツはうーん…と考え込むように視線を落として、

「亮子ちゃんなら、地毛でも驚かない」
「ハ。褒め言葉と受け取っておくわ」
 肩を揺らして笑う。足元のボールを蹴り上げれば、それは綺麗な弧を描いて相手の足元におさまった。

「さすがうちの司令塔」
「褒めたって何も出ないわよ」
 っていうかこのくらいあたしでなくたってトーゼンのように出来るでしょうに。
 そう口に出せば、相手…理緒は小さく笑って、同じようにそのボールを、あたしの足元へ返してきた。

「でも良いなあ。そういう色が似合うって」
「そぉかしら? 清水には『ババくさい色ですよね』なンて言われたけどねぇ」
 清水と言うのは1コ下のクラブ員だ。
 何かと突っかかってくるので適当にあしらってやってたような程度の間柄。
 まあ、負けず嫌いなアイツの事だから、それが敵愾心を余計に煽るンでしょうけど。

「それはほら、深弥ちゃんを亮子ちゃんがいじめるからじゃ…」
「突っ掛かられりゃ振り払うのはトーゼンじゃない」
 と言っても別にあたしは清水を認めてないわけじゃないンだけど。
 うちのクラブはかなり大きいトコで、其処でレギュラーを射止めてるってだけでそれはもう並大抵の努力じゃないってのをあたしは理解してる。
 だからそれなりに、共に闘うチームメイトには愛着だとか尊敬の念だとか言うものはなくもない。

 …ま、だから適当にあしらってるンだけど。
 どうでもいい相手なら完膚なきまでに叩き潰してるトコだし。

「で、結局どっちなの?」
「……アンタ、しつこいわね?」
「うん」
 にっこり。擬音がつきそうなくらい満面の笑顔。
 …コイツは、押しても引いても払っても突付いても堪えないから厄介だ。

「あたし遺伝子操作されてっから」
「え?」
「なモンだからこんなヘンな髪の色なのよ。驚いた?」

 冗談めかして言った。でも、あたしは理緒の顔は見ない。冗談で通らなくなるかも知れないから。
 …髪の色。
 どうしても思い出すのは、あたしを捨てた女のこと。

──なんであたしの髪はこんな色なの?

──うるさい。あんたと口なんて利きたくないわ。

 最初から憎悪しかなかった。あいつの口調には。
 そしてその憎悪が抑えきれなくなったとき、アイツはあたしを捨てて逃げた。
 だからあたしはアイツが嫌いだ。

 そしてアイツをそうさせた男も嫌いだった。
 あたしをこんなにした張本人。髪の色、瞳の色、尋常でない「能力」。

 そう。だからあたしは自分が嫌いだった。
 嫌いな奴らに創られた自分が嫌いだった。髪の色も瞳の色も全部、全部。

「──あのさ亮子ちゃん。なんかホントか嘘かとかあたし、バカだから考えないけどさ」
 理緒が喋ってもあたしは顔を上げない。上げられない。
 小さく溜息をついたのが聞こえた。

「でもそれ亮子ちゃんに超似合ってるし。何落ち込んでるのかわからないけど、気にしなくていいと思うよー?」
「……」

 思わず、顔を上げる。
 理緒は笑う。安心してよ、とでもいいたげに。

「…あたしはアンタほどバカじゃないわ」
「う。ひどいー」
「でもま、……がと、ね」

「え?」

 理緒が首を捻ったが、二度も同じ事を言うつもりなどさらさらない。
 もう一回! もう一回! などと喚いているが、完璧に無視してやる事に決めた。

 あたしは自分が嫌い「だった」。
 髪の色も、目の色も、与えられた能力も。全部。

 でも今はそうじゃない。
 相変わらずアイツらは憎たらしいし赦せない。出会ったら顎砕いてやろう、くらいには考えてる。

 それでも、だからって自分まで嫌う必要は別にない。
 あたしはあの男の実験動物として生まれて、そのせいであの女に捨てられたけど。
 あの男ともあの女とも、あたしという存在は別物なンだから。

「…ほれ。向こうでカントクがお呼びよ。さっさと行かないと怒られンじゃない?」
「亮子ちゃんは!」
「知らねーわよ。アンタだけってコトはFWのローテの話じゃない? 次の試合、スタメン外されたりしてね?」
「えーーー!! やだやだ、体力だけは有り余ってるのにーっ」
 スタメン落ちだけは勘弁してー、などと叫びながら、理緒は慌ててカントクの方へ走っていく。
 カントク自体は、別にそんな話など微塵も想定にない、とでもいうような呆気に取られた顔をしているが、多分理緒はバカだから気付かないだろう。
 というか女子のU-18でも屈指のストライカーだと評価される理緒を落として誰を組み込むと言う話だし。

 ほんとにアイツはバカ。バカだけど。
 でもあいつはバカだからこそ、あたしにも隔てなく接してくる。
 アイツみたいなバカは、せいぜい長生きしなきゃならない。

 そういう意味では、あたしが嫌いだったこの「能力」も。

 ──案外。悪いものではないのかも知れない。
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