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★風の翼と、緋色の炎 ─邂逅─

2008年12月18日 02:05

 転入生が来るらしいという話題で、クラス内はもちきりだった。
 普通そういうものは教師から知らされるものだが、同じクラスで過ごしていれば、大抵の人間の名前は頭に入る。
 2学期からの新しい名簿に見慣れない名前を見て、誰かが気付いたのだろう。
 朝の学活も始まっていないのに、誰もがその話を知っていた。
 
 転入生と言うのは、そう珍しい事では無い。
 実際、都市部にほど近いこのあたりは、人の出入りがそこそこに多いから。
 …そんなに何人も一遍に来るほどではないが、少なくとも私も過去4年間で数回経験がある。

「どんな子なんだろうね~」
「サッカー好きかなあー」

 …教室の至る所で、そんな会話がなされている。
 ……けれど、何をそんなにはしゃいでいるのかが、私にはよくわからない。

 …転入生。
 どうでもいい。興味がない。

 別にもとから、クラスの人間とは殆ど会話などしない。
 当たり障りの無い、どうでもいい会話くらいだ。
 友達らしい友達というのもないし、…作る気もない。

 だから、別にクラスの人間が増えようが、私にとっては特別な意味は無い。
 煩わしい雑音がひとつ、余計に増えるだけだ。

 ……ただ。
 私は、自分の隣、…用意された真新しい机をちらと見て、溜息を零す。

 その『雑音』が、自分の近くに増えるのは、多少の抵抗感がある。
 …と言っても、直前の席替えで、教室の一番後ろの一人席、などという場所を貰ってしまったからには、致し方のない事ではあるのだろう。

 予鈴が鳴る。
 いつもぎりぎりに登校して来る数人の生徒も、教室に入るなり誰かに『転入生』の話を告げられ、嬉々として話題に混じっていく。
 未だ、クラス中はまだ見ぬ転入生の話で溢れ返っている。
 …どうでも良いが、最初にその話を持ち込んで来た人間に関しては、もう15分も前から騒ぎ続けていると言うのに、よくぞ此処まで話し続けられるものだ。

 大体、何が楽しいのかが解らない。
 他人などと言うものは、忌避すべきとは思っても、興味など湧かない。
 ましてそれが、全く未知な存在である──というならば、尚更の事。

 ……それに。
 どうせ、いつか、失うのだから。

 本鈴が近づいてもなお止まない会話に、私が苛ついて溜息を吐き出した──丁度、それと同時に、教室の戸が開いた。
 本鈴よりも少しばかり早かったが、…転入生が入るときは大体そうだ。
 無駄な会話に話を咲かせていた生徒達は、慌てて自分の席へと戻って行く。

 担任の促すような声が聞こえて、それに少し遅れるようにして、見慣れない──転入生なのだ、当然だが──男子生徒が教室内に入って来る。
 その背を押すような形で、担任が。

 男子生徒は、教壇の上、いつもならば教師が立っているべき位置に立たされて、落ち着きのない様子で教室内を見回していた。
 転入生にしては珍しく…余り、緊張しているようには見えなかったが。
 彼が背にしている黒板に、担任が白いチョークで文字を書いて行く──男子生徒の名前だろう。

 緋野龍志。
 随分画数の多い名前だなどと、どうでも良い事をふと考えた。

 担任が彼の名を書き終え、自己紹介をするように促す…其処でようやく、本鈴だった。
 言葉を紡ごうとしてそれに邪魔されたのだろう、男子生徒──緋野は口を開きかけたまま、出鼻をくじかれたような顔をしていた。

 本鈴が止むと、彼は小さく咳払いして、…そしてようやく、声を発する。

「えーっと、緋野龍志です、神奈川から来ました。前のとこだとサッカーやってたけど、この辺はクラブあるかな? ともかく、よろしく!」

 …落ち着きがないのは態度だけでなく、言葉の方もだった。
 早口にまくしたてられた言葉の、私は最初の部分だけを頭に入れて、後は適当に聞き流す。

 本人の自己紹介が終われば、転入生の登場を待ち構えていたクラスの生徒達から、矢継ぎ早に質問が繰り出されて行く。
 …勿論、その内容など頭に入れていない。
 私の生活に関わりそうなのは奴の名字の読みくらいのもので、その他の事項は覚える必要もなければ、そんなつもりも最初から無いからだ。

「はい、みんな、そこまで。緋野君の席は風深さんの隣よ、仲良くするようにね」

 数分に及んだ質疑応答は、そんな担任の一言で締めくくられた。
 名を呼ばれた事に反応して教壇の方に僅かだけ視線を向ける。あそこよ、と担任が指した席──要するに私の隣だが──へ向かって、緋野が歩いてくるのが目に入る。

「これからよろしくね」

 …声を落として告げられたものは、多分私に対する言葉だろう。
 ちらと視線だけで窺えば、自席についた緋野は、何がそんなに嬉しいのかと言うくらい満面の笑顔だった。

 …直感的に、こいつとは多分そりが合わない、と悟る──というより、私にとっては殆どの人間がそうなのだが、…その中でも特に、と言うか。
 こういう、へらへらした奴は苦手、…というより、…嫌いだ。

 視線を外して、小さく息を吐く。
 …返答をするのも面倒だ。というより、会話をする気があると思われても困る。

「……あ、ねぇ、名前なんて言うの?」
「…うるさい。話しかけるな」

 続けられた言葉も、きっぱりと一言で切って捨ててやる。
 態度で示すだけでは解らなくとも、きっぱりとそう言われれば解るだろう。

 視線は、今度は向けなかった。
 だから言われた相手がどんな顔をしているかは解らないが、恐らくそれ以上は──

「う……や、でも、せっかく隣の席になったんだから仲良くしようよ」

 …何も言って来ないだろうと、思っていたのだが。
 存外にしぶとく食い下がって来る緋野に、内心で少しだけ驚いた。
 ここまであからさまに拒絶を示せば、大抵の相手は怯えきってそれ以上話しかけてこなくなると言うのに。

 もう一度、少しだけ視線を其方へ向ける。
 少し不安げな、というか、怯えたような感じはしても、…それでもその視線は、此方に真直ぐに向いている。

 …もうひとつ、口から溜息が零れた。
 それを何と思ったのか、視界の端の緋野の顔が不安そうな色を増した。
 けれどやはり、それでも視線は、外れてくれなくて。

 ……面倒臭い。

「……風深だ。風深翼」

 ぼそりと告げると、…奴は呆気に取られたように、目を丸く見開いた。
 やがて数秒の後、告げられたそれが名前であると言う事にようやく気付いたらしい。
 口の中でそれを反芻しながら、…緋野は、なんとも言えず嬉しそうに、笑みを浮かべた。

 …何が嬉しいのやら、私にはさっぱり解らない。
 名前を聞けたと言うだけで何故、そこまで嬉しそうにできるのか。

 何よりも、…他人と進んで関わろうとするその態度が、一番、私には不可解だった。
 …これだけ他人を邪険にしている人間と、わざわざ関わりを持とうなどと言う、その態度が。

「翼ちゃん…かあ。えと、宜しくね」

 掛けられた言葉に、差し出された手に、私が応える事はなかったけれど。
 …それでも、緋野は相変わらず、機嫌良さそうに、笑っていた。
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