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★転校初日

2008年10月24日 02:40

「あ、おはよ翼ー」

 校門前で掛けられた声。
 一瞬足を止めかけた私は、それを気のせいだと言い聞かせて再び歩みを進めた。
 
「あ、ちょっと翼。無視しないでよ」
 同じ声が、ちょっと不機嫌そうにそう告げる。

 …おかしいな。
 聴こえるはずのないものが聴こえるのは、何故だろうか。
 空耳、だろうか。…どうやら私は随分と疲れて…

「ちょっと、翼ってば」
 言葉と同時に、手首の辺りをはっしと掴まれる。

 …。
 どうやら残念な事に、気のせい、空耳、幻聴…そのどれでもないようだ。

 私は大きく息を吐くと、思い切り不機嫌そうな表情で振り向いてやる。
 …だがそんなものは奴には微塵も通じないようだった。
 怯むどころか、反応してもらえたのが嬉しくてたまらないとばかりに満面の笑顔。

 ……だから調子が狂うんだ、こいつは。

 深い溜息をひとつ零して、身体ごと振り返る。
 掴まれた手は思い切り振りほどいてやったが、相変わらず何が楽しいのか笑顔のままだ。

「…何故お前が、当然のような顔で其処に居るんだ」
 とりあえずは、一番の疑問を率直にぶつけてみる。

「え、何でって、決まってるじゃん」
 奴は動じるでも慌てるでもなく、ポケットから何かを取り出して、私の目の前に差し出した。

 …それは、片手におさまるサイズの小さな手帳だ。
 ……自分の上着のポケットから、自分の生徒手帳を取り出して、奴の差し出したそれと並べてみる。

 …ぴったり。寸分の違いも無く、同じものだ。
 
 ……。
 …つまり。何だ。こいつは。

「…お前…銀誓館に…?」
「え? うん」

「……」
 何と言うか、余りにも平然と頷くものだから。
 思わず、額を抑えて唸ってしまった。

 …もう一度まじまじと見た、奴の持っているそれは、確かに銀誓館学園の生徒手帳だ。
 しかも何の因果か、同じキャンパス……さすがに、クラスは違ったが…。

「……何故お前まで転校しているんだ…」

 …何か良く解らないが、急に疲れた気がして来た。
 ため息と共に問いを発すると、奴は、…問うているのはこっちだと言うのに、首を傾げて私を見ている。

「何でって…翼がいるから、だけど」

 何を当たり前の事を、とでも言わんばかりの口調で、奴はそう言った。

 …そんな調子なものだから。
 思わず私が奴の腹を反射的に殴ったとしても、責めを受ける謂れは無いと、思う。

 その場に崩れ落ちて恨めしげに見上げて来る奴から視線を外して、少しだけ俯く。

 …ああ、もう。
 こう、どうしてこいつは、素でこういうことを言うのだろうか。

 ……正直。こういうのは、苦手なのだ。
 何とも言えず、むず痒い気持ちになるから。

「つ、翼……せっかく新しいガッコに来て早速それ?」

 馬鹿が何か言っていたが、無視する方向で決定した。
 恨めしげな弱々しい声を聞き流して、ひとり先に校門をくぐる。

 …決して、気恥ずかしくて奴の顔が見れないとか、そういう事ではない。

「あ、ま、待ってよー」
 数メートル程歩いた辺りで、後方からそんな声。
 …ようやく復活したらしいが、立ち止まってやる義理もないし、そもそも必要が無いから、私は振り向きもしないし歩む速度も緩めない。
 どうせ、向こうで勝手に追いついてくるだろう。いつも、頼みもしないのについてくるのだから。

「はぁ、もう、今度はクラス違うんだからもっと愛想良くしないとダメだよ?」
 ……追いつくなりそれか、こいつは…。

 余計なお世話だ、と切り捨ててもう少し歩む速度を速めた。
 殴られたい願望でもあるのならもう2~3発殴ってやっても…とも思いはしたが、いちいち相手をしていては時間の無駄だ。転校初日から遅刻と言うのは、流石に決まりが悪い。
 いや、別に奴が間に合わなかろうがそれは一向に構わないが。寧ろ推奨する。

「翼、聞いてる? まったく、そんなんだとクラスで浮いちゃうよ?」
 …まだ言うか。
 懲りずに追いついて来る龍志に肘を食らわせてやると、流石にそれ以上は黙ったようだった。
 抗議の視線は気にしない事にしておく。
 私は少しすっきりした気持ちになって、歩む速度を僅かに緩めた。

「…全く」
 相変わらず過ぎて、溜息ももう出なくなった。

 ……正直なところを、話せば。
 新しい環境と言うものには、少なからずの不安があった。
 …元々自分は、周りと打ち解けるのが得意ではない自覚も、あったから。

 けれど、今はどうだろう。
 不本意だが、…そう、非常に不本意ながら。
 奴のいつもと変わらない様子を見ていたら、そんなものは何処かに吹き飛んでしまったようだった。

 …全く。こいつは本当に、何と言うか。
 まあ、当の本人は恐らく、自分がどれだけの事をしているかなど自覚していないのだろうが──

 そんな物思いを遮るかのように、遠くで響く予鈴。

 …ん。…予鈴?

「なっ、もう…」
「うわ、もうこんな時間。初日から遅刻はまずいよ、ほら、行こう」
 いつの間に復活したやら横に並んでいた龍志が、私が何かを言うよりも先に、そう言って。

 …そう言って。
 当然のような顔で私の手を取って、走り出す。

「っ、お前っ」
「えーっと、中学生の校舎はあっちだな……ん、どうかし──」
「前を向いて走れ、前をっ」

 振り向きかけた龍志の髪を引っ掴んで、無理矢理前を向かせる。
 何がしか不満が奴の口から漏れた気がするが、そんなものは知らない。

 …こんな顔を、見せられるものか。絶対、平静で無いに決まっているのだから。

 繋がれた手。
 …視線を向けるのも気恥ずかしいから、必死で石畳の地面を睨んで走り続けた。

 ……ああもう。
 これで自覚が無いのだと言うのだから、詐欺も同然だ…!


 結局中学生校舎の入り口をくぐるまで、ずっと手はそのままで。
 その光景を、存外多くの生徒達に目撃されていた事を私が知るのは、また少し、後の話──






+++






あとがき:

過去話を2~3本同時並行で進めていた時に、ふと神が舞い降りたので、こんな話が出来上がりました。
翼(と龍志君)の転校初日、5月の中旬の話です。

………意外と、乙女だったんです、ねえ(酷)

状況補足としては、翼は「銀誓館に入学する」と龍志君に告げています。
でも龍志君の方は何も言わなかったので、まさかいるとは思わなかった、と(何)

ぶっちゃけ書きたかったのは「…何故お前が、当然のような顔で其処に居るんだ」の台詞と、
「……何故お前まで転校しているんだ…」「何でって…翼がいるから、だけど」のかけあいだけだったりして。
つまり本当はもの凄く短くなる予定だったのが、何かいつの間にかこんな長さに。
さすが背後です。文章構成能力が乏しすぎる。最後なんて無理矢理終わらせたようなものだし(滅)

あ、因みに前半は私が捏造しましたが(ぁ)、後半は龍志君の背後さんにお世話になってます。
「新しいガッコに~」のくだり以降、龍志君の行動は全て彼の仕業です(笑)

手を繋ぐ、に関しては、翼なら振り切って殴って逃げるかとも思いましたが(笑)、
転入して1ヶ月くらいの頃に雑談上で「仲がいいと評判の~」と言う触れ込みで話が出たので、
そうか、結構周囲にも色々知られてるんだろうな、ならこんなワンシーンがあってもおかしくないな、と思い、そのまま採用しました(笑)
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コメント

  1. 蒼城・陽菜 | URL | ul68WnVk

    可愛いなぁw

    うんうん、やっぱりラブコメの王道を行く二人だよな♪(笑)
    初日からこれだけ仲の良さを見せ付ければそりゃ噂にもなるよなぁw
    俺も噂で龍志の事は知ったからな(笑)
    可愛すぎるぞ、翼!(笑)
    いつか、二人の結婚式には呼んでくれよな!(気が早いw)

  2. 一七夜月・氷辻 | URL | -

    (やっぱり、誤解でもなんでもないのでは…と思っている…)

    …やっぱり、翼さんは可愛いと思う…。
    えっと、わたしも結婚式に呼んでくれると、嬉しいかなっ(笑)。

  3. 風深・翼 | URL | ap6xNNEE

    可愛くないっ

    >陽菜
    別にあれはあいつの所為なのであって私の所為では…(ぶちぶち/笑)
    というか、陽菜に言われて初めて、そんな噂があるのを知ったのだよな…
    か、可愛くない!
    あと結婚しない! あれは只の腐れ縁だっ(まだ言う/笑)

    >氷辻
    ひ、氷辻まで…!<可愛いと思う
    だから結婚などしないと…何故そんな話が出てくるんだ…っ!

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